君は月夜に光り輝くのラスト結末はどうなる?ネタバレありの作品紹介。

『君は月夜に光り輝く』は、『第23回電撃小説大賞』で大賞に輝いた佐野徹夜のデビュー作。累計発行部数30万部を突破し、実写映画化が決定。

『君は月夜に光り輝く』の原作ネタバレをラストの結末まで詳しくご紹介します。

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君は月夜に光り輝くが実写映画化!

実写映画の主演を務めるのは、永野芽郁さんと北村匠海さん。大ヒットした『キミスイ』こと『君の膵臓をたべたい』と同じスタッフが制作。

北村匠海さんは、キミスイで主人公・志賀春樹(高校生時代)の役で出演しています。

映画は、2019年3月15日に全国の劇場で公開されます。

君は月夜に光り輝くの登場人物

岡田卓也(主人公=僕)

高校一年生。三年前に交通事故で姉を亡くしている。

渡良瀬まみず(ヒロイン)

『発光病』という難病を患っている本作のヒロイン。

香山彰

卓也の恩人で、同級生。中学生の時に卓也はいじめられている同級生をかばい、代わりに不良グループに目をつけられてしまった。それを助けてくれたのが香山だった。

渡良瀬律

まみずの母。

深見真

まみずの父。まみずの母・律とは離婚している。

君は月夜に光り輝くのラスト結末はどうなる?

高校生の主人公・卓也と同級生のまみずがヒロインの青春ラブストーリー。

卓也は、難病で余命僅かで病院生活を送っているまみずへのお見舞いがきっかけで二人は出会う。まみずは病院から出られないので、まみずが死ぬまでにしたいことを引き受けることになった卓也。

二人は惹かれ合い恋人同士となるが、やがてその時は訪れる。

まみずの願い通り、夜の火葬場で最後の別れを行なった。途中で抜け出して火葬場から見える煙は、月の光に照らされてきらきらと青白く輝いていた。

『君は月夜に光り輝く』の最初から最後までの詳しいストーリー(ネタバレ)を次にご紹介します。

君は月夜に光り輝くのストーリー(ネタバレ)

『君は月夜に光り輝く』は、高校生の僕と『発光病』という不治の病を患った少女とのラブストーリーです。

※『発行病』は本作で出てくる架空の病です。

発光病

高校生になったばかりの僕はクラスを代表して寄せ書きを届けるために、一度も会ったことがない同級生の渡良瀬まみずへ会いに行った。

頭が良さそうなのに、喜怒哀楽の激しいまみずに興味を持った。

ふと、ベッドの横にあるスノードームに目が留まった。父に買ってもらったもので、好きなのだと教えてくれた。

翌日、香山から「病状を聞いて来てほしい」と頼まれ、再びまみずの病室へ行った。

病院に着くと、まみずは検査で不在だった。

僕は病室にあるスノードームを振って眺めるが、手が滑って壊してしまう。

そこへ戻ってきたまみずはショックを受けているようだった。

「ねえ、卓也くん。私って、あとどれくらい生きそうに見える?」

「わかんないな」

「私、余命ゼロなんだ」

1年前に『余命1年』と宣告されたらしい。それから1年経過したため、余命ゼロ。

彼女は、『発光病』という原因不明で治療法が確立されていない難病に侵されており、中学1年生の頃からずっと学校を欠席していた。十代から二十代前半までに突然発症し、ほとんどが大人になる前に死ぬと言われてる病気だ。

月の光を浴びると皮ふが光るから「発光病」。病状が進行すればするほど、その光は強くなっていくという。

お見舞いの帰り際、「また遊びに来てくれる?」とまみずが聞く。そのつもりはなかったが、寂しそうな彼女にそんな事は言えなかった。

僕は帰り際、交通事故で亡くなった姉のことを考えた。

死ぬ直前の姉とまみずには、どこか重なる部分があると感じた。

まみずと一緒に居たら、姉の死について何かわかるのではないか。僕はまた、病院を訪れることにした。

まみずのやりたいことを代行

ある日、まみずの病室を訪れるとペンを走らせていた。

「私ね、今、死ぬまでにしたいことのリストをまとめてるんだ」

まみずは、限られた時間を有意義に使いたいというわけだ。しかし、彼女は病院どころか病室からも出てはいけないと言われているため、まみずが体験することはない。

まみずのスノードームを壊してしまった罪滅ぼしで、僕は言った。

「それ、僕に手伝わせてくれないか?」

僕が手伝うと言ったところで、彼女は病室から出ることすらできない。

だから、僕が彼女の代わりに「死ぬまでにしたいことのリスト」を実行し、その感想を彼女に話す。

僕は、彼女の提案に乗ることにした。

まみずのやりたいこと①:1人で遊園地

「私、遊園地に行ってみたい!」

僕は、GW真っ只中の遊園地にいた。たった1人で。

1人でこなすには精神的ダメージが大きかった。周りから注目され、笑われ、あげくの果てには写真まで撮られた。

何だ、この苦行は・・・。

「卓也くん、サイコーだよ!おなか痛い!」

僕が最悪だった遊園地の体験をまみずに話すと、ベッドの上でゲラゲラ笑っていた。

そして次のお願いをされた。

まみずのやりたいこと②:新型スマホを入手

まみずの2つ目のお願いは、新型スマホを入手するために徹夜で並ぶこと。

寒くて退屈だったが、なんとかミッションを完遂する。彼女に手に入れたスマホを渡すついでにアドレスを交換しておいた。

まみずのやりたいこと③:両親の離婚理由を知りたい

まみずの3つ目のお願いは、両親が離婚した理由を父親に聞きたいということだった。

まみずの母は決して離婚理由を話してくれないらしい。自分のせいで両親が離婚したと思っているようだ。

住所を頼りに、彼女の父が住む家へ向かった。

彼女の父・真さんは、僕の話を聞くと離婚の理由を教えてくれた。

真さんは小規模な部品メーカーを経営していたが、大口の取引先が潰れたことで倒産。取り立てのせいで、娘の治療費を奪われないように離婚したということだった。

今でも真さんは密かに仕送りをしているが、取り立ての目がある以上、娘とは合うことができないということだった。まみずに黙っていたのは、自分のせいで苦労していると思わせないためだったらしい。

僕はメールだけでもとお願いし、真さんの連絡先を教えてもらった。

その時に真さんがプレゼントしたというスノードームを壊してしまったことを謝罪した。

そして、僕はまみずに一部始終を伝えた。

「私、生まれてこなければよかったね」

両親を離婚させてしまったのに、自分の病気は治らない。意味もなく両親を不幸にさせてるわけではないか。

暗い顔でうつむく彼女に、僕は何も言えない。そして彼女が僕にこう言った。

「卓也くんだって、迷惑だよね。私みたいな面倒くさい女の子、病気の女の子と会って。言うこと聞いてくれて。私、もう卓也くんに甘えるのも、やめるね」

僕は決して軽い気持ちで励ましてはいけないと思った。

「『死ぬまでにしたいこと』のリスト、まだたくさんあるんだろ。次は僕、何をすればいい?」

「でも、嫌じゃないの?」

僕は少し考えてから言った。

「まぁ……嫌じゃないかな。」

こうして、僕はこれからも彼女の無茶振りに応えることとなった。

姉の死

姉の教科書をパラパラめくると、赤線が引かれているページを見つけた。

中原中也の『春日狂想』という詩で、そこにはこう書かれていた。

「愛するものが死んだ時には、自殺しなきゃあなりません。」

姉には恋人がいた。香山の兄・香山正隆だ。

正隆は、姉が亡くなる半年前に交通事故で亡くなっている。

姉はきっと・・・。

無茶ぶりに応える日々

それからも僕はまみずの『死ぬまでにしたいこと』リストの無茶ぶりに応えた。

「私、メイド喫茶でバイトしてみたかったの」

「私、バンジージャンプがしたい」

「クラブに行ってみたい」

メイド喫茶は男の僕はメイドとして働くわけには行かず、厨房で働いた。そこで、1歳年上の平林リコと知り合う。

この話をするとまみずは不機嫌になった。

ある日、まみずは大がかりな検査を受けた。しかし、結果は良くなかったらしい。

検査の結果が良ければ外出できるようになるかもしれないと期待していた彼女は、目に見えてガッカリしていた。

「ねえ、私がいつか絶対に来ないでって言っても、会いに来てくれる?」

「変な心配すんなよ。なあ次、何がしたい?」

「……じゃあね、私、天体観測がしたい。私、星って好きなの」

まみずの声はどこか甘えているようで、僕たちの距離は縮まっているのかも知れないと思った。

そして、その夜に僕は夢を見た。

まみずは元気に学校に通っていた。夢だと気づくと僕は泣いた。

まみずはいつか死ぬ。それまで僕はどうするんだろう・・・。

天体観測

天体観測なんて、外出ができないのでは無理だと思っていた。もしかしたら病院でもできるかも知れないと考え直し、バイト代で望遠鏡を購入。

面会時間終了の夜8時では、まだ明るいので消灯時間が過ぎた頃に病院に侵入。

まみずを連れて、屋上へ向かう。

僕は望遠鏡の準備をしていると、彼女の悲鳴が聞こえる。

「やだ!」

「ハッ」として振り向くと、彼女の肌が光っていた。

「恥ずかしいから、見ないで」

彼女は哀願するように言うが、僕はそれを恥ずかしいと思わない。

「ごめん。でも、まみず、綺麗だよ」

ショックが大きかったのか、彼女の表情は暗い。

「卓也くん、引いたでしょ。化け物か妖怪みたいだよね」

「まみずは、まみずだよ」

そう応えて、僕は望遠鏡を準備する。

まみずが望遠鏡を覗く。星の輝きに目を奪われて、さっきまでの暗い表情は消えた。

僕はそれだけで満足だった。

望遠鏡を覗いたまま、まみずがふいに言った。

「ねぇ、卓也くんってさ、彼女とかいるの?」

いたらこんなに頻繁に来ていない。

「じゃあ、好きな人は?」

「・・・・・」

僕は答えない。ごまかすように言った。

「モテないんだよ」

彼女はするりと僕に近づき、腕を軽く掴んだ。

「予行演習してみよっか。卓也くんに、彼女ができるように」

「別にいらないよ」

「私がしてみたいんだよね。お願い。5分だけでいいからさ」

何かロマンチックなセリフを求める。

そんなことを急に言われても思いつかない。

まみずは仕方ないという顔をして、「プロポーズでもいい」と言う。

「病めるときも、健やかなるときも、君を愛し、助け、真心を尽くすよ」

「私も、卓也くんのことがずっと好きだよ」

まみずは、僕をまっすぐ見ている。

僕もまみずの目を見つめ返す。

「冗談だよ、笑えるね」

まみずは再び、望遠鏡を覗き込んだ。

そして、無防備に星空を眺めてるまみずに言った。

「まみず、僕、君のことが好きだ」

まみずは、僕の方を向かずにそのまま言った。

「もう、5分たったよ」

僕は真面目なトーンで言った。

「冗談じゃないよ」

少しの沈黙の後、まみずが言った。

「ごめんね」

まみずの声には涙が混じっていた。

恩人の香山とまみずを訪ねる

僕の学校では、1年生は演劇をやることになっている。僕のクラスでは「ロミオとジュリエット」をやることになった。

ロミオは香山が立候補し、僕はジュリエット役に立候補。まみずのお願いとはいえ、男同士による奇妙なロミオとジュリエットの誕生だ。

連日行われていた演劇練習の休憩時間に香山が言った。

「渡良瀬まみずに会いに行こうと思うんだ」

女遊びが激しい香山だったが、最近女関係を綺麗に清算していた。そもそも、最初に僕をまみずの元へ向かわせたのも香山だ。

「渡良瀬まみずのことなんだけど、オレ、彼女のことが好きだったんだ」

「知ってる」

「だよな」

香山に話を聞くと、中学受験のときに渡良瀬まみずに助けてもらったらしい。

香山が僕をまみずの所へ向かわせたのは、いずれ橋渡し役になってほしいからということだった。

「……オレ、渡良瀬まみずに告白するよ」

真剣な表情の香山に僕がまみずに告白してフラれたことは言えなかった。

そして僕と香山は、まみずの病室を訪ねた。香山とまみずを二人だけにして僕は外に出た。

しばらくすると、顔面蒼白の香山が出てきた。

「……悔しいよ」

たった一言残して、香山は去って行った。

香山と入れ替わるように、僕はまみずの部屋に入ってまみずに聞いた。

「なんて断ったの?」

「ごめん」

「他に好きな人がいる、って言った」

僕はその言葉にショックを受けた。相手は一体誰なんだろう・・・?

まみずは誰が好きなの?

ある日のこと。連日の演劇練習でなかなか病室へ行けなかった。

数日ぶりにまみずの病室を訪れた。

まみずは「遅いよ」といってむくれてみせる。

なんだか生意気に感じたので、僕は彼女のほっぺをつねることにした。

「やーめーてーよー」

「やめない」

「ちょーっとー」

まみずが何だか変な口調になっている。僕は真似して聞いた。

「きーみーはーだーれーがーすーきーなーのー」

まみずは僕の手をどかして真顔になって言った。

「私は誰も好きにならないように努力しているのです」

「なんだそりゃ」

「だから、その邪魔をしてもらっては困ります」

まずます意味不明だった。

代わりに手編みのマフラーを渡され、真さんに渡すようお願いされた。

僕は後日、真さんにマフラーを渡した。真さんは僕にスノードームの作り方が書かれた本を渡した。

まみずが突き放す

まみずは、会うたびに痩せていく。

「もう、卓也くん、来なくていいよ」

「なんでそんなこと言うんだよ」

「私のことなんか、全部きれいさっぱり忘れてよ」

「なんだよ、それ……」

「つらいから。もう、あなたの顔、見たくない」

彼女の声は、少しヒステリックだった。

「もう二度と来ないで」

「それが私の最後のお願いだよ」

まみずがわざと突き放そうとしているのは理解できる。

でも僕は傷ついた。

「・・・わかった」と言って、僕は病室を出た。

彼女は全部忘れてと言った。僕には無理だ。

香山の一言に驚く

2週間後。文化祭前日に香山に言われた。

「あと2か月なんだろ」

それを聞いた僕はハッとした。香山は僕が当然知っているだろうという口ぶりで話したが、まみずの余命だ。

これまで僕はわざと聞かずにいたが、そんなに短かかったとは・・・。香山と一緒に訪れた時点で余命2ヶ月だったと教えられる。

動揺を隠すように香山に言った。

「僕もフラれたんだよ。渡良瀬まみずに」

香山は驚かずに言った。

「いつもそばにいてくれて、でも決して手を触れちゃいけない人」

「はぁ?」

「渡良瀬まみずが好きな男の話だよ」

「本人が言ってたのか?」

「そうだよ。だから、お前のことだろ」

「いや……」

否定しかけた時に、ふと前にまみずが言った言葉を思い出した。

『ねえ、私がいつか、絶対来ないでって言っても、会いに来てくれる?』

その夜、僕はまみずのいる病院へ忍び込んだ。

しかし、まみずの病室に辿り着く前に看護師さんに見つかってしまい、こっぴどく怒られた。

僕は「岡田卓也です」と名乗ると、看護師さんが言った。

「最近、渡良瀬さん、眠りながら泣いてるんだ。あんたが来なくなってから、ずっとだ。」

「『卓也くん、ごめんね』っていつも言ってる。毎晩、あんたに謝ってる。あんたが彼女を謝らせてる」

看護師さんに従って僕は帰った。帰り際に「演劇がんばるから」という伝言をお願いした。

文化祭当日

文化祭当日。演劇の準備をしていた。

まみずからビデオ通話がかかってきた。

「私の顔が、見たいんだって?」

画面いっぱいに映る彼女の顔。直前まで泣きはらしたようなひどい顔だったが、隠す素振りもなかった。

「どう?」

まみずは、何故かドヤ顔で言った。

「誰がなんて言ったって、この世で一番君が綺麗だ」

僕は本気でそう言った。

そして僕は、ビデオ通話を繋いだままに舞台裏へと移動する。

ビデオ通話が繋がったままのスマホを先生に預ける。これでまみずも一緒に文化祭を体験できる。

女装のジュリエットが登場する「ロミオとジュリエット」は成功を収めた。

特に盛り上がったのは、アドリブのラストシーン。

本来は悲劇で終わるお話だ。しかし、ジュリエットがロミオの自決に待ったをかけるという妙な展開となり、最後はロミオのセリフで観客は爆笑。

「ジュリエット、生きてるから!」

「わー、ラッキー……!」

これでよかった。愛し合う恋人たちがお互いの後を追ってこの世から去る結末なんて、まみずには見せられない。

翌日、病院へ行くが「面会謝絶」の札が掛けられていた。

夜まで病院に居たが会えなかった。何度もメッセージを送るが、既読は付かず不安で仕方なかった。

その日は不安で一睡もできなかった。

翌日の夕方、まみずから着信があった。

「ごめん、寝ちゃってて昨日。どうしたの、あんなにメッセージ?心配した?」

次の日の朝、僕は病院へ向かった。

まみずの腕にはたくさんの管が何本も突き刺さっていた。けれども、彼女は元気そうだった。

「生きててよかった」

僕は心の底からそう言い、まみずを抱きしめた。

すると彼女は、僕を押しのけた。

「ねぇ、想像してみて。好きな人が死んだら、つらいよ。しんどいよ。忘れられないよ。そんなの嫌でしょ? 私、想像してみた。生きてくの、無理だと思う。だからね、やめよ? ここでやめよう」

「うるさい」

僕は彼女の目を見て言った。

「つらくて、しんどくて、いい。絶対忘れない」

「困るよ」

まみずは僕から目をそらして顔を伏せた。

「好きなんだ」

僕はもう、好きだという気持ちから逃げるのはやめようと思った。

「そんなの困る」

「なんで?」

「・・・・・・・」

まみずは長い間沈黙した。

やがて、怒ったようなまみずの目から涙が流れた。そして、彼女が言った。

「私だって卓也くんのこと、好きだから」

その時が迫る

僕は真さんからもらった本を参考にスノードームを直して、まみずに渡した。

まみずの体調は日によって上下して、その時が迫っていた。

ある日、まみずが言った。

「……死んだらどうなるのか知りたいよ」

その時、僕にある考えが閃いた。「その日の夜、もう一度来る」と言って病院を出た。

夜に病院へ忍び込む。今度は看護師さんに見つからないように。

そして、一人では歩けないまみずを背負って屋上へ行った。

いつかの天体観測の時とは比べ物にならないほど、まみずの身体は光っていた。

「蛍みたいで、綺麗でしょ」

「宇宙で一番、綺麗だよ」

僕は真剣に言って、まみずをベンチに座らせた。

「私、卓也くんに出会えて本当によかった。もう何も、思い残すことはないよ」

「僕もないんだ。何も」

僕にも思い残すことはない。

まみずに目を閉じるように言って、屋上の隅へと歩いていく。

僕は柵を乗り越える。そこはもう空の一部で、数歩踏み出せば足元は無くなる。

「いいよ、まみず!」

目を開けたまみずは絶句した。

「何……してんの?」

「これから、僕は死ぬんだ。死んだらどうなるのか、まみずに教えるんだ」

「……バカなの?」

「死ぬのなんて怖くないって、君に教える」

僕が本気だと悟ったまみずは、声を震わせて叫んだ。

「怖いに決まってるじゃん!私だって、本当はまだ、怖くてしょうがないのに!」

「僕は生きてる方がずっと怖いんだ」

僕は生きて、まみずを忘れてしまうのが怖い。

まみずのいない人生に、「悪くない」と思えてしまう日が来るのが怖い。

「よく見ていてほしい。死ぬことに興味があるんだろ?それは僕も同じなんだ。だからずっと、君に惹かれていたのかもしれない」

姉がこの世を去ってから、僕はずっと生きていることが後ろめたかった。

せめて最後にまみずのためになれるのなら、これほど喜ばしいことはない。

「僕は、君より先に死にたいんだ」

そう言って、僕はまみずに背を向けた。

見下ろすと、はるか遠くにコンクリートの地面が見えて、足が震える。

意を決して、ジャンプしようとしたその時。

背後で、「がしゃん」と音がした。柵が揺れる音だ。

驚いて振り返ると、柵の向こうにまみずが居た。

まみずはもう一歩も歩けないはずなのに、這うようにこちらへやってきた。

「どうでもいい」

「死んだらどうなるかなんて、どうでもいい」

彼女の言葉に、僕は混乱する。

「どうでもいいことに、今、気がついた。あなたのおかげで、やっと気づけた」

僕を止めるために、嘘をついているのだろうか?

「私、ずっとわかってたよ。卓也くんが、もうすぐ死ぬ私に憧れてたこと」

這いつくばっていたまみずが、柵につかまりながらよろよろと立ち上がった。

その姿に、僕は胸を締め付けられる。

「ずっと、つらかった。こんなにつらい思いをするなら、そもそも生まれてくるんじゃなかったって何度も思った。楽しかったことも嬉しかったことも、憎らしくて悔しかった。生きているから死ぬのが恐ろしいなら、最初から無でよかった。この世界に対する興味を、失いたかった」

僕はまみずの本音を初めて聞いた。

「でも、そんな私を、変えた人がいました。君でした」

「他のすべてを諦められても、あなたのことだけは諦められない。ずっと、諦めようとしてたのに。私は狂っているのかもしれません。自分よりあなたが大切だなんて。」

「あなたがこの世にいない未来を、私はさっき想像しました。それだけはありえない、と思いました。そのとき、私は、自分がこの世界にまだ期待していることに気づきました。」

「あなたが生きている世界と死んでいる世界では、何もかもが違うと思った。そして、私は今までずっと封印してきた自分の中の欲望に、気がつきました」

彼女の声は透き通っていて、夜の屋上によく通った。

「私の、渡良瀬まみずの、本当の最後のお願いを、岡田卓也くんに言います」

「私のかわりに生きて、教えてください。この世界の隅々まで、たくさんのことを見て聞いて体験してください。そして、あなたの中に生き続ける私に、生きる意味を教え続けてください」

それを聞いた僕は吸い寄せられるように、まみずのいる柵の方へと近づいた。

「私の最後のお願い、聞いてくれる?」

まみずの唇がすぐそこにあった。僕は彼女にキスをした。

「好きだよ」

「愛してる」

僕は彼女に何度も言った。

それから、渡良瀬まみずは、14日間生きた。

別れの時

僕はスノードーム制作にいそしんでるとき、まみずの父・真さんから電話がかかってきた。

あの夜、まみずから受け取ったノートの中に『こんなスノードームをつくりたい』という、落書きが書かれていたからだ。

「まみずが、最後に卓也くんに会いたいって言ってる」

僕は慌ててタクシーを利用して、病院へ向かった。

でも間に合わなかった。

僕が病院についた頃には、まみずには白い布が被せられていた。

「まみずが、卓也くんに渡してほしいって」

真さんから、ICレコーダーを受け取った。録音されているのは、まみずのメッセージ。

「さて、実は私にはまだまだ『死ぬまでにやりたいこと』が残っているのです。それをこれから発表してみたいと思います」

「最初のお願いは、彼女の遺体を夜の火葬場で焼くこと。」

「2つ目のお願いはちゃんと私のお葬式に出てください。それで、私が彼女だったってみんなに言ってください。素敵な彼氏がいたんだって、みんなに見せびらかしたいから。それに、卓也くんにも、こんなに綺麗な彼女がいたんだって自慢してほしいから」

僕はまみずの言う通り実行した。

真さんにお願いして夜の火葬場を開けてもらったし、クラスメイトにもまみずが彼女だったと伝えた。

火葬場を途中で抜け出し、香山と二人で近くの丘の上から夜の火葬場を眺めた。

まみずだった煙は、月の光に照らされてきらきらと青白く輝いていた。

僕はその光を、とても綺麗だと思った。

四十九日が過ぎ、半年後にまみずのお墓ができた。

真さんに誘ってもらって、墓参りへ行った。

墓の前につくと、僕はスノードームをポケットから出して墓の脇に置いた。

新しいスノードームを作りたいというまみずの願いに応え、彼女のデザインを基に完成させたものだ。

スノードームの中では、ウェディングドレスとタキシードを着た二人が、仲良さそうに佇んでいる。

それから、彼女の墓に手を合わせて目を閉じた。

そして、もうすぐ春が来る。

僕がまみずと出会った季節だ。

僕はポケットからICレコーダーを取り出して、イヤホンを耳に挿した。

あれから何度も聴いたまみずの声を、目を閉じてもう一度聴いた。

「お父さんが電話であなたを呼んでいました。もうすぐきっと、最後の瞬間がやってきます」

「私は、幸せが好きです。そして今、とっても幸せです。卓也くんはどうですか?どうか私のために、幸せになってください。あなたの幸せを、心から祈っています。渡良瀬まみずより、これが最後の通信です。さようなら。愛してます。愛してる。愛してる」

僕が間に合わなかった最後の時間に、まみずが残した声だ。

そして彼女は最後に言った。

「愛してます。愛してる。愛してる。」

<完>
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